保元物語 - 00 序

 夫易にいはく、「天文をみて時変を察し、人文を見て天下を化成す。」といへり。こゝをも(っ)て政道、理にあたる時は、風雨、時にしたが(っ)て、国家豊饒なり。君臣合体するときは、四海太平にして、凶賊おこる事なし。君、上にあ(っ)て、まつりごとたがふ時は、国みだれ民くるしむ。臣、下として礼に背ときは、家をうしなひ身をほろぼす。あるひは、ほしひまゝに国位をうばゝんがために、天下をみだる。黎民これによ(っ)て愁。あるひはみだりがはしく官職をあらそふによ(っ)て、国家をかたぶく。群臣これが為にかなしむ。つゐに旗を戦場に上といへども、天道のゆるしをかうぶらず、はかりことを軍旅にめぐらすといへ共、王法のせめをまぬかれず。かるがゆへにかばねを外土のちりにさらし、みな名を後代のあざけりに残す。いにしへより今にいた(っ)て、誰か一人として、しからずといふ事あらむ。

保元物語 - 01 後白河院御即位の事